妥協のない欧州の旅 (6)

1月4日 ブリュッセル

1月4日(日)
昨晩寝る前に、明日は8時半に起きよう、と二人で誓い合っていたが起きたら9時半。慌てて支度をして外出。今日は予定が詰まっておるのだ。

何はともあれ朝食である。昨日はワッフルを食べたから今日はクレープとオムレツでいこうと意気込むも、しまった。今日は日曜日。街は完全に静まりかえっていた。街中をうろうろとさまよい、ようやくグラン・プラス(大広場)に面したレストランが開いているのを発見。クレープとオムレツはなかったが、代わりに食べたクロック・ムッシュ(ホットサンドみたいなもの)はかなりの美味。これは朝から調子がいいぞ。

中央駅まで歩き、メトロ(地下鉄)に乗って10駅弱。Bockstaelという駅で下車して20分ほど歩くと、住宅街にひっそりとあったのがベルギーのシュルレアリスト、ルネ・マグリットの美術館。私のとってベルギーでの大きな目的がここであった。ここはマグリットが実際に24年間住んだ家を、ある熱狂的なファンが美術館に改装したものだそうである。美術館とは言っても実際にマグリットの作品が大量に並べられているというわけではなくて、彼の作品のなかに幾度となく登場する扉や暖炉、鈴、パイプ、シュルレアリストたちが作った当時の雑誌や、マグリットが描いたポスター、デザインしたタバコ、といったものが主に展示されている。ややマニア向けの美術館といえる。彼が実際に使っていたアトリエも復元されていて興味深かった。

美術館を出ると小雨。バスに乗って約30分、南駅まで移動する。アントワープまでの往復切符を購入し、腹が減ったので駅構内のハーゲン・ダッツでワッフルを買う。さすが。ベルギーのハーゲン・ダッツではワッフルを焼いて売っているのだ。妻はチョコレートをのせたもの、私は何もつけないものを注文。ワッフル美味い。午後2時7分ブリュッセル発でアントワープに午後2時45分着。横に座っていた家族連れ。奥さんは美しい人だがニット帽をとると丸坊主。ハードである。

ところでベルギーでは使われている言語がかなり複雑に混じっている。フランス語(訛りがけっこう強い)とフラマン語(オランダ語の方言)が中心で、ドイツ語圏もあるそうだ。そんなわけで大抵の人が何ヶ国語も話せる。英語もだいたい通じるので旅には心配ない(が、やはりフランス語を話すと地元の人にはウケがよいようで、妻がフランス語で話しかけるのと私が英語で話しかけるのとではなんとなく対応が違う気がした)。で、ベルギーでもオランダでも耳にするオランダ語。私には全く理解できないのだが、語感が非常に面白い。フランス語の柔らかい響きとドイツ語の鋭い響きのちょうど中間のような感じなのである。文化も言語も、さまざまな国が交錯するなかなか面白い地域だ。

話がそれた。アントワープは港湾都市であり、バロック期最大の画家と言われるルーベンスの活躍した街であり、世界のダイヤモンド取引の中枢であり、それゆえにヨーロッパ最大のユダヤ人コミュニティが形成されている街でもある。街の中心には立派なノートルダム大寺院が建っていて、まずはここを見学することにした。

余談だが、ノートルダム寺院といえばパリにある寺院が有名だが、もともとノートルダムというのは「ノートル=フランス語で「私達の」」「ダム=同じく「女性」」、つまり聖母マリアのことを指すそうで、だから一般名詞であり、各地に同じ名前の寺院があるわけだ。と、これは妻からの受け売りである。

14世紀の建築で中にはルーベンスの有名な祭壇画がいくつも掲げられている。そういえば二人とも初詣をしていなかったので、まあここもお寺には違いないと50セントでロウソクを買って火を灯し、家内安全を祈ったものの、我ながらさすがにちょっとお門違いな気もする・・・。

寺院を出て街を散策。この時期ヨーロッパはちょうどセールの時期。というわけで目抜き通りの百貨店やブティックはどこもすごい人出であった。途中カフェでのお茶を挟んで5時半ごろまで街を練り歩き、駅に戻って5時40分発の急行列車でブリュッセルに戻った。

さて夕食である。昨日はかなり持ち直した夕食だが、最後の夜はビシッと決めたいところ。綿密に調べて、聖カトリーヌ教会近くの「リュイトリエール」というシーフードレストランへ。妻はオマールエビ、私は3種類の魚のムニエル。絶品であった。デザートもコーヒーも美味しく、ウェイターもまことに洗練されていて大満足。ベルギー株はここへ来てうなぎ昇りである。

午後8時半、ホテルに戻り、湯船に浸かって(ここのホテル、浴槽が深くて日本のように浸かることができる)リラックスし、テレビでニュースを見ていると、グルジアの大統領選挙があってサーカシビリ氏が当選確実とのこと。インタビューに応じる若き大統領候補は、自信に満ちた口調でグルジア再建のヴィジョンを語っていた。興奮していた。ここでまたもや余談だが、グルジアを英語で”GEORGIA”と綴るとは知らず、最初はジョージア州の州知事選とばかり思い、なぜアメリカの州知事選がヨーロッパでそんなに話題になるのか不思議に思っていた。情けなや。不明を恥じる次第。

ビールを呑んで12時頃就寝。