(11) 一蘭(六本木)

支店:上野、渋谷、東京ドーム前など

博多に昭和35年にオープンした豚骨ラーメンの老舗。

九州においては、地元でも一二を争うほどのメジャーな存在ではあったものの、これまで九州以外のエリアには店舗を拡大させない方針をとっていたため、全国各エリアのラーメン通から、その進出が待ち望まれていた店である。

しかしながら、九州人にとっては、「一蘭」を食さざるものはトンコツを語るべからず、と言われるくらいのカリスマ店であり、未食であった僕はそのことで随分肩身の狭い思いをしていたものだ。東京にあるトンコツラーメンの店は随分食べにいったものだが、肝心の地元の名店が手つかずでは、お話にならないのである。

さて、こういう「一蘭」ではあったが、一昨年の終わり遂に、六本木に1号店をオープンさせ、昨年3月には上野駅構内に2号店をオープンさせた。

「一蘭」は、無休であり、なおかつ営業時間が24時間というラーメン屋としては画期的な営業体系をとっているため、僕も職場から程近い六本木店をしばしば利用させていただいているところである。遠くまで食べに行く時間的な余裕がなく、それでもどうしても旨いラーメンを食べたいという場合にこの店は本当に重宝する。我々、役人達の救世主、メシアである。

さて、話を進めれば「一蘭」は、独特のシステムを導入していることでも話題の店である。

まずは、好みのスープの濃さ、油の量、麺の硬さ、チャーシューの有無、ネギの種類、秘伝のタレに至るまでのあらゆる事項の好みを用紙に記入して店員に渡すシステムを最初に導入したのがここである。洋服で言えば、イージーオーダーシステムに近い。極端なハナシ「味薄目、油なし、麺超柔らかめ、チャーシューなし、ネギ抜き」を頼んだ人と、「味超濃いめ、油超多め、麺超硬め、チャーシューあり、ネギあり」で頼んだ人とでは、提供されるラーメンの味は、似て非なるものとなるわけだ。

店の構造も風変わりである。それぞれの客席と客席の間には衝立が設けられており、客同士の顔は完全に見えない。そして、前方にも垂れ幕が架かっており、店員の顔も見えない。食べてもらうことだけに集中してもらうために設けられたシステムだというが、このようなシステムを導入している店も珍しい。まるで予備校の自習室のようであるが、面白い試みである。イメージとしては、完全にオートメーション化された近未来のラーメン屋という感じであり、この感覚は一度行ってみなければご理解いただけないかもしれない。言うなれば、店に入ってから出ていくまでの徹頭徹尾を、店員とも他の客とも接点を持つことなく、自分好みのラーメンを食べることが可能なのである。まぁ、一方で、寂しいと言えば寂しいシステムなのだが。

さて、肝心のラーメンの味の方なのであるが、麺量は一般的に替え玉を前提としているため分量が110g~120gと、少な目である博多系の中でも、相当に控えめ。あまりにも少なすぎて、スープの中を細麺ストレートの麺が泳いでいるというビジュアルだ。

スープは今まで食べてきた博多トンコツ系のスープより褐色がかっており、おそらくベースとなる醤油が多めなんだろうと思われる。

僕のデフォルトは「味超濃いめ、油超多め、麺超硬め、秘伝のタレ2倍量」なのであるが、このデフォルトでいくと(滅多にここまで極端な指定をする人もいないと思われるが)醤油とトンコツと油とが例えようのないくらいに渾然一体とブレンドされ、トロリとした甘口ベースの旨味が味蕾を興奮させる。

細いハリガネのような麺にこのスープを絡めて食べるのであるが、これがなかなかどうして、イケルのである。

ネギは、青ネギが非常に良い。青ネギは通常関西系のラーメンに多用される具材であり、関東圏では滅多にお目にかかれるものではないので、希少価値は高い。

チャーシューは、あってもなくても同じ値段となるが、「あり」を注文しても、そんなにお徳感はないだろう。博多系にありがちな小さくて不味いものであり、特筆すべきことは何もない(ただし、タダで付いてくるんだから、普通は頼むだろう)。

総じて、かなり美味いラーメンだと思う。特に麺とスープの出来映えは24時間営業の店とは思われない程であり、十分にお薦めできる。

替え玉は、150円で、やや高めの設定であるが、少し食べ足したいという人向けに半替え玉(100円)もある。ラーメンは、デフォルト(何も入っていない基本的なもの)で750円。この価格設定であれば、2杯替え玉をすれば1,000円を超えてくるということになる。東京圏の博多ラーメンは600円(デフォルト)+100円(替え玉)位の価格設定が通常だから、少し高いかな?という程度の感覚だろうか。

評価は、(1)麺11点、(2)スープ14点、(3)具2点、(4)バランス9点、(5)将来性6点の合計42点。

一言で言えば、バランスの高さで食べさせるラーメンである。24時間営業で42点は非常に高評価であり、六本木で終電以降も開いている店としてはダントツの旨さであると言えるだろう。

開店当初は行列店であったが、もともと博多系ラーメンの店は回転率が良い上に、「一蘭」は座席数も多いので、2003年3月現在、よほどの運が悪くなければ待たずに入れることだろう。博多系では是非ともお薦めしたい手軽に食することのできる貴重な店である。

(最新実食日03年2月)