都内および大阪府に支店あり
あっさり系の醤油スープに針金のようにピンと伸びた細いストレート麺を使うラーメン界の革命児。なおかつ、神奈川県下のラーメン屋の実力の高さを全国に知らしめた張本人でもある。
のどかな港北のセンター北は、いかにも新興住宅地といった雰囲気が漂う小綺麗で清潔感のある街であるが、その街の道路沿いに木目造りアウトドア風の建物が一軒。それが「くじら軒」である。人通りの少ない道路に突然現れる大行列が目印である。休日の昼時ならば、30~40人は堅いであろう。しかも、麺の茹で加減を絶妙に保つために、一回に3人分しか作らないという。それだけでも「いったい、どれだけ待てば食べることができるんだろう」と不安になり、尻込みしたくなる。そんな重圧を圧してでも食べたい店が「くじら軒」である。
ここは、前述のようにあっさり系の醤油スープにストレート麺を採用した数少ない店。その中でも薄口のスープを使った一品が「ラーメン」、濃口のスープを使った一品が「支那そば」である。ただ、薄口、濃口のどちらもあっさりした穏やかで優しい印象のスープであり、通常ならばこのようなスープには絡み具合を考えて縮れの強い麺をつかうのが常識である。
僕も数多くのあっさり醤油ラーメンを食べてきたつもりであるが、そのいずれもが縮れ麺を採用しており、それが普通だと思っていた。今でこそ、大和「中村屋」のようにあっさり系スープにストレート麺を使う店もちらほら存在しているが、この方法を本格的に採用した店は「くじら軒」が最初ではなかろうか。いわば「ラーメンの常識を覆す革命」といったところだと思うが、そのストレート麺が、また不思議なほどにスープとマッチしていて美味いのである。
僕がまだこの店の存在を知らなかった頃(というよりもその頃はまだ「くじら軒」がこの世に存在していなかったのだが)、「一度あっさり系醤油ラーメンをストレート麺で食べてみたい」と常々思っていたのであるが、その願望はなかなか叶うことはなかった。それを一番最初に叶えてくれたのがここ「くじら軒」である。
もちろん、通常あっさり系醤油ラーメンにストレート麺を使わないのには理由がある。ストレート麺はその形状ゆえ致し方ないことなのであるが、スープをほとんど絡めないため、麺を食べる客にスープの味が伝わりにくいのである。ゆえに、あっさり系のスープには縮れ麺を使う手法がこの世界の半ば常識と化していた。その常識を覆してまでストレート麺に拘ったのも、もちろん「くじら軒」なりの理由があって、それはスープに余程の自信があるからである。
食べてみればそれも納得。「くじら軒」のスープは全体として魚介類の風味を全面に打ち出しており、最近よく見かけるニューウエーブ系のスタイルを踏襲するものであるが、ありがちな魚介類独特の癖や嫌味が全くと言っていい程にうち消されている。爽やかで喉越しも極めて良い。
具は、デフォルトで、ほうれん草、チャーシュー、海苔とナルトが乗り、控えめな印象を受けるがそれぞれの素材もそれなりに良い。ただ、やはり「具」というひとつのジャンルで捉えれば、少々物足りないといったところか。
評価としては(1)麺14点、(2)スープ18点、(3)具3点、(4)バランス10点、(5)将来性8点の合計53点。ただ「バランス」は10点満点でも足りないくらいに高く、ルールを破って12点くらい与えたいほどである。
ストレート麺とスープとが織りなす感覚は、多くの人にとっては全く斬新なものであろうかと思う。都内に住む人にとってはかなり不便だとは思うが、是非とも一度足を運んでその妙味を体験していただきたい。
(最新実食日:01年10月)