昨年4月中旬オープンの新店。フードプロデューサーの渡辺氏が満を持して世に送り出した、これからのラーメン業界を担う要となるだろう一店。彼がプロデュースしたラーメン屋はこれで3軒目になるが、自分の名前を暖簾に掲げた店はここが初めて。余程の自信があるのだろう。
ラーメンは、その自信に見合った極上かつ超絶の出来。麺、スープ、具、三者のバランスともに、全く欠点を探し出すことができない。僕が知りうる限りにおいて、最高のラーメンのひとつである。このレベルのラーメンを出されてしまうと、僕なんぞは、ただただ敬服してしまうほか術はない。
本当であらば、もはや僕の限られたボキャブラリを使った言葉による評価など何らの意味も持たず、「ただ開店から1、2時間以内に店に向かっていただき、食べていただければ全てが解る」。ただこれだけで十分なのであるが、そういうわけにもいかぬ。敢えて評価させていただくことにしよう。
まず、麺は全く鹹水臭のしない中細のストレート麺で、麺の茹で加減、湯切りの具合、硬さに至るまで、完璧である。麺そのものの風味も、口に含むと、小麦なんだろうか、香ばしい風味が穏やかに口の中を包み込む。美味すぎる。
スープは、魚介類ベースのニューウェーブ系の基本を踏襲しているが、同系列の唯一の欠点であった「サカナ臭さ」が鼻に付くことは全くない。それでいて、素材の持ち味は限界までに引き出されており、そのそれぞれが個性を主張しながらも互いに衝突し合うこともない。
それぞれが連携・協力しながら、極限までに旨味を高めている。アッサリ系でありながら、なおかつ濃厚で清流を思わせる爽やかな喉越し。一口啜ればただただ黙って跪くしかない。鳥肌ものの旨さである。
具は、味付け卵、チャーシューを基本として構成されるがそのどれもが、完璧な調理がなされた渾身の力作であり、遂にラーメンもここまで進化を遂げたか、とただただ感心するばかりの出来映えである。
もはやこれはラーメンとしての範疇を超越し、いかなる美食家をも唸らせる超一流の「食」、歴史的な傑作である。個々の店のレベルが極めて高い高田馬場においても、1、2を争う名店中の名店と言い切って間違いないだろう。もちろん、半日潰してでも食べに行く価値はある。
なお、言うまでもないことであるが、麺切れ終了には細心の注意を払うこと。この店に向かうに当たって「早すぎる」「まだ十分間に合う」といった感覚は全く通用しないし、前述したとおり、レベルが高い高田馬場においても、この店のスペアとなり得るような店は殆ど存在しないのだから。
(1)麺15点、(2)スープ20点、(3)具5点、(4)バランス10点、(5)将来性9点の計59点。
高田馬場から早稲田通りを歩き、明治通りのひとつ手前の路地を左折したところにあるおよそラーメン屋らしからぬ目立たない外観の店であるが、実力は日本で間違いなくトップクラスである。
(実食日02年4月)
前回実食日はオープン当初の昨年4月時点のもの。あれから1年経って「渡なべ」がどのように変化し、どのような足跡をたどってきたのかを確かめるため再び高田馬場に向かった。
土曜日の正午。現地に到着。確か、前回行ったときも土曜日の昼時という同じタイミングで店に向かったのであるが、その時には行列も存在せず、そのまま店には行って待つことなくラーメンを食べることができた。
しかし、今回1年ぶりに向かった「渡なべ」は、果たしてネットや情報誌の噂どおり、都内でも名だたる大行列店に成長を遂げていた。行列を作る客の数は、なんと50人!この人数は「べんてん」や東池袋「大勝軒」に勝るとも劣らぬものである。列の最後尾は、店のドアから50mは離れた早稲田通りにまで到達しそうな勢いだ。少し見ぬうちに悪ガキから立派な青年に成長した我が子の勇姿を見るような気分に包まれた。
店内の席の数はカウンターのみの8席とそのままなので、土曜日のこの時間に並べば単純計算で6巡目か7巡目ということになる。1巡あたり15分と計算しても、ラーメンにありつくまでには1時間半から2時間はかかる見通しだ。
ボクのすぐ後ろに並んだ客は、今年学校を卒業して就職するという2人の女性。女性が男性同伴ではなく同性同士で行列店の行列に加わる光景を目にすることは普通あまりない。「渡なべ」の驚異的な実力を垣間見た一幕であった。
予想どおり、行列に並び始めてから1時間半あまりが経過した後、僕は約1年ぶりに「渡なべ」のラーメンと再会したが、弾力性に溢れた食べ応えのある中細ストレート麺、煮干しの味を攻撃的に前面に押し出しつつも各素材の持ち味を最大限に活かし切ったコクのあるスープのクオリティは変わらない。いや、むしろスープについては、前回よりもなお一層コクが引き出された完成度の高いものとなっているようにも思われた。
そして、絶妙な匙加減で調理された味付け卵、柔らかい部分だけを丁寧に削り出したチャーシューなど具の完成度の高さも健在。
評点変わらず。老若男女を問わず、全く問題なくスープの残り一滴までも完食できる類い希なクオリティを誇る渾身の一杯である。
(1)麺15点、(2)スープ20点、(3)具5点、(4)バランス10点、(5)将来性9点の計59点。
(最新実食日03年3月)