店主の魂が籠もった「作品」であるラーメンを評価することは、本来「天に向かって唾する」ようなもので、甚だ恐縮なことである。しかしながらこれが私の職務であるゆえいたしかたない。私の採点方法を以下に示したい。
(1)麺
(2)スープ
(3)具
(4)麺、スープ、具のバランス
(5)将来性
の5項目を
それぞれ、(1)15点 (2)20点 (3)5点 (4)10点 (5)10点の合計60点満点で評価する。
点数で評価することにしたのは、数値化した方がより解り易いということと、例えば、スープの味にこだわる人がいたとして、その人はスープの得点と合計点を御覧戴ければ、より簡便な判断ができるのではないか、という至極単純な理由からである。
僕は、ラーメン店自体を一幅の「画」として眺めている。人物画に例えれば、
(1)の麺は、「人物そのもの」
(2)のスープは、「人物」を取り囲む「背景」
(3)の具は、その画に個性を添える「オブジェ」
のようなものだと考えており、
(4)のバランスは、「背景」「人物」「オブジェ」が一体として織りなす「完成度」のようなものだと理解している。
「麺」は主役との位置付けなので、勿論、ラーメンにとっては極めて重要な構成要素であり15点満点で評価したい。ただし、主役の「麺」もそれを取り囲む脇役が悪ければ台無し。全く実力を発揮できない。主役を引き立てるも、ダメにするのも、脇役次第だと言ってもいいだろう。そういう意味で、極めて重要な脇役たる役割を担う「スープ」には20点満点を与えた。
「具」は、そういう主役と脇役を引き立てるアクセントのようなもの。よって5点満点とした。
また、「麺」「スープ」「具」とは少し違った観点からの見方になるが、「バランス」も、極めて重要な要素である。例えば、いくら美人であっても、体と顔のバランスが調和していない女性の評価が悪いように、いくら、それぞれの要素が俊逸だったとしても、それが、ひとつの画として巧く調和していなければ、駄作になってしまう。だから、その店のラーメンが実際に美味いかどうかについては、バランスの評点を見れば大体解るということである。これは10点満点で。
(5)の将来性とは、その店が将来、どれくらいのラーメンを作り出せる可能性があるのかという、いわば期待値に近いものである。それは大体、店主のラーメンに対する姿勢や、店の外観などに現れてくる。画で言うと、その画を取り囲む額縁のようなものと理解していただきたい。
人間の味覚とは、不思議なもので、タバコをプカプカ吸いながら、マッタリとラーメンを作る汚い油まみれの店で食べるラーメンより、熱心な店主が、キビキビとラーメンを作る清潔な店で食べるラーメンの方が、ラーメンそれ自体のクオリティが同じであれば、美味いと感じるだろうと僕は思う。そのような「画」を取り囲む諸々の要素を「将来性」として表現したい。これも10点満点。
このような基準で合計60点満点制を取っていきたいと考えているが、おおまかな指標として、スコアが50点以上の店は僕が強くお奨めする「ラーメン界に必ずや偉大な足跡を残すであろう名店」、45点以上の店は「殆どの人間が満足できるクオリティを有する優良実力店」、40点以上の店は「かなり美味しい店」、35点以上の店は「そこそこ美味しい店」、35点以下の店は、「うーん、繰り返し行くことはないだろうなぁという店」といった感じで考えていただければよい。
ただし、何度も書いたようにあくまでもこれは僕の私見であり、最後は皆様の舌の判断に委ねたい。
平成15年3月
農林水産省製麺局ラーメン課
担当課長 田中一明